「アドテク」開発の最前線から見るデジタルマーケティングの今まで・これから~EVERRISE伊藤孝様~

1977年生まれ。東京都出身。ソフトウェア開発会社にてプログラマとしてキャリアをスタート。物流や会計などのプロジェクトに携わった後、2006年に現経営陣とともに株式会社EVERRISEを創業し取締役就任。起業後もアドテク領域で多数のプロジェクトで実績を積み、現在は主にコンサルティング営業を担当。

 

 

 

アドテク開発の最前線に10年以上立ち続けた男・伊藤孝

 

 

 

[松本] 今回のゲストはアドテクノロジー(以降は「アドテク」と表記)業界でお馴染み、株式会社EVERRISEの伊藤孝さんです。伊藤さんとは以前にアドテク勉強会にお招きいただいて、それ以降のお付き合いをさせていただいております。今日はよろしくお願いします。

 

伊藤さんにインタビューをさせていただきたいと思ったのは、私がアドエビスというプロダクトの開発に携わってもう10年が経つのですが、同じようなエンジニアの方にアドとテクノロジーの関係をどう思われているかインタビューしたかったからです。システムの数だけ、開発の側面から「アドテク」を語れる人がいるはずで、真っ先に思い浮かんだのが伊藤さんでした。

 

[伊藤] 10年ですか!長いですね。御社は業界の仲間でもありますし、ある意味では競合要素もありますし(笑)、今日のお話は共感し合える点が多く出てきそうですね。

 

[松本] 昨今はビッグデータ、人工知能という文脈で語られるデジタルマーケティングですが、その端緒は「アドテク」が切り開いたと考えています。マーケターの方に「アドテク」を伺うよりも、創ってこられたエンジニアの方に「アドテク」を伺ったほうが「何を造らなくなったのか」「何を造るようになったのか」という比較もできると思いました。

 

[伊藤] なるほど。よろしくお願いします。

 

[松本] 色々とお話をお伺いする前に、まずは伊藤さんのことを詳しく教えてください!

 

[伊藤] まず会社の説明を簡単にさせていただきます。当社、株式会社EVERRISEはデジタルマーケティングに関するテクノロジーを提供するテックカンパニーです。

 

マーケティングに関するシステム開発をコンサルティング、設計、製造、運用保守まで一気通貫で提供しております。その他、マーケティング系の自社サービスの提供も行っております。是非気軽にご相談ください!

 

さて、私についてですが、今年で39歳、二児の父です。17年ほどITの世界に居ます。もともとは銀行や物流などの開発を行うSIerからキャリアを始めています。ここでシステム開発の基礎を学びました。

 

独立をしたのは2006年です。当時mixiが流行ったりWeb2.0などという単語が聞かれるようになり、ネットバブル崩壊で冷え切った状態から盛り返して、インターネットの力を世間が再認識した時代でした。もちろん業界人である僕らはもう少し前からそれを感じていたので、自分たちで新しいWEBサービスを作りたいという思いが抑えきれず独立しました。

 

独立して最初にご挨拶をさせていただいたのが広告業界の方々で、そこでアドサーバのカスタマイズ案件を依頼されたんです。そこから「アドテク」との出会いが始まり、気が付いたら広告系の仕事をいっぱいすることになって、今に至ります。広告系の知見があったので何かを生み出したいというわけではなく、ご挨拶させていただいた「縁」からマーケティングの世界の門戸を開くことになりました。

 

[松本] 2006年は私が就職活動をしていた頃です。確かベンチャーブームだった記憶があります。私も「ベンチャーかっこいい!」と思って、まだ社員数10名に満たない株式会社ロックオンに入社しました。

 

[伊藤] まさに、そういう時期です。スマートフォンもないガラケー全盛期です。Facebookは日本に本格的に上陸していません。まだまだ「何かできそうだ」という期待感先行で、いろいろなお話がありました。

 

[松本] この頃からアドテク開発専門だったのでしょうか?

 

[伊藤] その当時は、広告系の比率が高かったのですが、その他の仕事もやっていました。まだ我々もアドテク専業という意識が薄かったのは事実です。あくまでシステムインテグレータとしての1つの仕事という感じでしたね。

 

[松本] その比重が高まったキッカケは何でしょうか?

 

[伊藤] 2010年くらいに「アドテク」という単語自体がブームといいますか一般的になったのですが、これが1つのキッカケです。

 

2006年~2009年くらいまで我々が開発に携わっていたアド系プロダクトはとてもエクスクルーシブでプレイヤーが限られていたと思います。なので、開発をバックアップしている我々がお客様の競合になるような戦略は取りえないとの認識から裏方に徹していました。

 

ですが徐々に情報がオープンになってくるにつれて、我々も「EVERRISE = アドテク」という色を明確に打ち出そうと決め、自社の「アドテクブログ」を開設したのです。「アドテク」で行こう!と決めて準備したら、そこに丁度「アドテク」というキーワードが流行った。はっきり言ってラッキーでした。SEOは重要ですね(笑)。

 

 

 

 

 

 

世間のニーズが一気に高まったのですが、相談先がなかなか無いので多くのお問い合わせが当社に来ました。そこで企業様の生の声をさらに得ることができ、業界についての知見をより深めることができました。

 

[松本] なるほど…だからこそ、色んな代理店さんが使われているアド系プロダクトの裏には御社がいるのですね。アド系プロダクトのラスボス的黒幕は御社だと私は勝手に。

 

[伊藤] いえいえいえ(笑)。何を言い出すんですか(笑)。

 

[松本] 現在も「アドテク」開発がメインなのでしょうか?

 

[伊藤] 今は「デジタルマーケティング関連のテクノロジーのお手伝い」をしている、と言っています。弊社のプロダクト群に、アドサーバ以外のサービスラインナップが増えたからですね。SaaS型で提供しているサービスもありますが、多くは1社1社カスタマイズをしています。

 

例えばアドネットワークと一言でいっても様々なパターンがあり、クリエイティブ、ターゲティングの組み合わせなど、自然とカスタマイズは必要となります。なので「御社のビジネスモデルとして何が最適か?」を協議しながら進めることになります。

 

[松本] それは御社の中に知見や経験から蓄積されているからですね。

 

 

 

死亡宣告された「アドテク」は本当に死んだのか

 

 

 

[松本] ところで話を進める前に、先ほどの「デジタルマーケティング関連のテクノロジー」という言葉を深堀させて下さい。

 

アドテクという単語が2014年秋頃に一方的に死亡宣告を受け、代わって「マーケティングテクノロジー」「デジタルマーケティング」が注目を集めるようになりました。「アドテク」という単語は、古いものにされてしまったという印象すら持っています。

 

しかし、私自身はアドテクが死んだという感覚はあまり持てていません。伊藤さんはまさに勃興以前から「アドテク」を定点観測されていると思うのですが、顧客からの需要やニーズは「死んだ」といわれるほど減っているでしょうか?

 

[伊藤] 全く減ってないですね。

 

ただ、依頼元の内訳に変化は見られます。今まで配信事業者様のニーズが多かったのが、広告主様からのニーズが高まっています。例えば小売業であれば、リアルからネットに移行するなかで、独自のアドサーバを持ちたいというニーズが強くあります。アドテクが良い意味で枯れた技術になってきているので、それをうまく本体の事業に活用しようというケースは多くなってきているのかもしれません。

 

[松本] 作って欲しいプロダクト自体に変化は起きているでしょうか?

 

[伊藤] 3~4年前まではDSPやアドネットワークが多かったのですが、最近アドサーバの需要が増えています。MAは去年が一番多かったです。今年はあまり聞きませんね、強力なプレイヤーが出そろってきたからでしょうか。

DSPに限って言えば、もう弊社が依頼を断っています。DSP作りたいですといわれても、もう他社には勝てないと思うんです。Supershipさんとか、FreakOutさんとか、MicroAdさんとか、Logicadさんとか…。そちらのOEMがいいのでは?とお答えしています。

 

[松本] DSPは、レッドオーシャン過ぎて水が枯れた大地ですからね…。

 

[伊藤] そうですね。当社はそれこそ10年間もアドネットワーク、アドエクスチェンジ、DSP、SSPといったプラットフォームの開発を代理店様やプラットフォーマーに提供してきたのですが、ちょうどDSP、SSPのプレイヤーが出そろったあたりで広告エコシステムの完成感を感じることが確かにありました。

 

ですが、ふと冷静に広告主視点に立ってみると、未だにリスティング広告は強力だし、オウンドメディアのSEOは超重要だし、SNS上でのマーケティング活動も、リアルイベントも重要なんですね。「アドバタイジングはマーケティングの一要素でしかなくて、今後はアドに限らず、企業のマーケティングに全般にテクノロジーを活用しなくてはいけないんだな」という、凄く当たり前のことを改めて感じたのが2014年の空気だったのだと思います。

 

だから、当時のハイプサイクルの熱が冷めたような空気というのは「アドテク」という単語が指していたDSP/SSPが実現する広告エコシステムに対してであり、しかも投資対象としての熱視線が冷めたという意味において、それらが地に足の着いたビジネスになったという事なのだと思います。

 

 

 

 

[松本] 「アドテク」という単語が、どの領域までを指すのかの認識あわせが必要ということですね。私が「アドテク」という単語が出てきたときからインターネット広告全般に関するテクノロジーだという認識でした。狭義の「アドテク」と広義の「アドテク」があるのかもしれませんね。2017年は「あらゆるマーケティングのデジタル化に伴うテクノロジー全般がアドテク」だと認識をアップデートしないといけないんのだと思います。マーケティング≠アドではあるのですが、総称としてはそういうことなのだろうという感覚です。

 

[伊藤] そうですね。言葉の定義の問題はありますが、技術屋の立場から言わせていただくと、私も「アドテク」が死んだとは全く思っていません。死んでいないどころか間違いなく重要さを増しています。それはやはり上位概念にあたる「デジタルマーケティング」や「マーケティングテクノロジー」といった領域でも核となる技術は間違いなく「アドテク」がベースだからです。

 

 

 

システム開発の観点から見た「アドテク」とは?

 

 

 

[松本] 核となる技術は「アドテク」がベースというお話がありましたが、もう少し詳しくお聞きしたいです。理解しておくべき技術とはどういうものでしょうか?

 

[伊藤] アドテクを構成している重要な技術要素を、技術屋の立場から独断と偏見で4つあげさせて頂くと、1つ目がビーコン、2つ目がID統合、3つ目がハイトラフィック、4つ目がビッグデータです。これら4つの技術要素は昨今のマーケティングテクノロジーでも核となっています。

 

[松本] 一つ一つお話を聞かせてください。まず1つ目の要素であるビーコンと呼ばれている技術はどのような要素ですか?

 

[伊藤] 中身は単純なhttpリクエストであり、そこから出力されるWebサーバーのログです。サイトに対して特定のタグを埋め込んでおくことで、そのサイト内の情報及びそのブラウザの情報を収集し、サーバーに対して通知してくれる、そういう技術要素をビーコンと呼んでいます。丁度まさに御社が提供されているアドエビスや、Google Analytics等がわかりやすい具体例になると思います。ビーコンを用いることでユーザーの行動を追跡できるわけです。

 

アドテクではこれらビーコン技術を用いて様々なデータ蓄積をおこなっています。前述のとおり、私はもともとエンタープライズIT出身なのですが、2006年にこの仕組みを初めて聞いた時はまさに目から鱗が落ちる思いでした。

 

[松本] 次のID統合とはどのような要素でしょうか?

 

[伊藤] 簡単に言うと、全端末全ブラウザに対してIDを振り、クロスチャネル、クロスデバイス、クロスプラットフォームで名寄せをするんですね。昨今ではDMPなどで中心となる技術なのですが、やはりここは各社四苦八苦されながらノウハウを積んでいっている分野だと思います。

 

[松本] そうなんですよね。今年の夏ぐらいになって、ようやくアカデミックな領域でも研究論文が出始めているようです。それでは残り2つは似たようなものなので、纏めてお聞きします。ハイトラフィックとビッグデータについてはどのような要素でしょうか?

 

[伊藤] ハイトラフィック&ビッグデータって、今でこそFacebookとかUberみたいな巨大Webサービス運営者が、地獄のミサワの「寝てないわー」みたいな感じで威張ってますけど、最初にハイトラフィック&ビッグデータを扱っていたのは「アドテク」ですよね。まぁ、本当の最初はYahoo!さんかもしれませんが(笑)。

 

何故かというと、1つのWebサイトがそれほど巨大でなくても、何千、何万と束ねれば、ものすごい数のトラフィックが生まれ、そのトラフィック一つ一つにたいしてデータが溜まるので、巨大なデータが生まれるわけです。一日に10億件のアクセスがあって10億レコードのデータが出来上がる。これぞまさにアドテク!って感じです。ORACLEで100万件の顧客データ扱うだけでヒーヒー言っていた10年前のエンタープライズIT時代が懐かしいです。そこからは桁が3つも4つも違う世界です。

 

 

 

「アドテク」の10年間。開発側から見た変化と深化

 

 

 

[松本] その「アドテク」の開発側からみた10年というのはどのようにとらえていらっしゃいますか?

 

[伊藤] 長くもあり短くもあり感慨深いですね。あの頃、私もまだ20代でしたから。個人的になによりも最も大きい変化だと思うのは、やはりスマートフォンの普及です。その少し前からネットにつながるガラケーはありましたが、スマートフォンは電話ではなくパソコンと同等の情報処理端末でした。やはりスマートフォンの登場によってインターネットに常時接続しているのが普通の時代が始まりました。

 

それで何が起こったかというと、消費者のネット接触が膨大に増えたことによってインターネットが4マス媒体を超えてしまったことだと思っています。10年前に「インターネットがテレビを超える」と理解していた一般人は少ないのではないでしょうか。私もインターネットが世界を変えると信じていましたが、マス4媒体にこれほどの打撃を与える存在になっているとは想像できませんでした。結果的に「アドテク」は非常に大きな市場を獲得することになりました。

 

[松本] 丁度10年前くらいからインターネット広告は世間一般的にも注目され始めましたよね。

 

[伊藤] そういう意味では、最初のカオスマップから存在感を発揮している御社のプロダクト「アドエビス」は本当に凄いです。羨ましいというか、素直に敬服致します。当時、「アドエビスと同じものを作ってほしい。」という依頼とか実際にありましたからね(笑)。

 

[松本] そんな依頼もあるんですね!(笑)。では、アドテクとは離れて、開発や技術視点でみた10年というのはいかがですか?

 

[伊藤] スマホは前述のとおりなのですが、それ以外だとやはりインフラが変わりました。10年前はまだオンプレミスが主流でしたが、今は完全にクラウドが主流になりました。

 

プログラミングはそれほど変わった印象はありません。強いて言えばブラウザが進化したことによってJavaScriptの重要性が増した。これは意外だったなと感じています。

 

それから衝撃的だったのはDevOpsでしょうか。Facebookなどが取り入れている、開発(Development)と運用(Operations)のシームレスな連携を指す言葉ですが、これは10年前には考えられなかったです。CIやその他さまざまなツールが出てきて、開発手法といいますか方法論がかなり変わりましたね。

 

 

 

「アドテク」とエンジニアリングの次の展望

 

 

 

[松本] 「10年前には考えられない」という言葉が出ましたが、まさに今から10年後も、現在の環境が「信じられない」ものになっているかもしれません。今後の動きをどう見ていらっしゃいますか?

 

[伊藤] アドテクという意味では、2007年頃から行動ターゲティング広告が始まり、その頃に「枠から人へ」という単語が出てきました。テクノロジーの進化でこんなことができるようになったのか!という興奮を覚えています。その後DSP/SSPが完成して広告エコシステムが出来上がって「アドテク」が一段落したのは前述のとおりです。

 

そして、ここにきて一部ではプレミアムアドネットワークなどで「人から枠へ」と回帰する動きも出てきました。しかし、大きな流れでいえばやはり「人」の重要さが増していて、DMPやMAといったサービスが台頭しています。

 

さらにそれらがCRMやATDと統合された次世代のマーケティングプラットフォームが出てくるというのが現在の潮流かなと思っています。

 

 

 

 

今になってようやく「アドテク」はSIerの仕事になってきたなというのを感じています。「アドテク」が「マーケティングテクノロジー」に変わってから、ここが次のエンタープライズITの中心地だという事に各社が気付き始めた。だから、Microsoft、Salesforce、SAP、ORACLEといったITジャイアントはもちろん、アクセンチュア等のコンサルファームや日本のSIerもこぞってこの分野に参入し始めています。

 

もちろん老舗アドテク屋の当社も、この次世代のマーケティングプラットフォームを目指して「INTEGRAL(インテグラル)」という製品の開発を発表しています。完成はまだ少し先なのですが、それに先んじて「INTEGRAL-CORE(インテグラルコア)」というプライベートDMPエンジンの提供を開始しています。どんな戦いになるのか今からワクワクしていますね。

 

[松本] 今後、特に注目している技術はありますか?

 

[伊藤] ズバリAIとARです。AIは将来というよりも、この10年の変化の中の大きな驚きの一つでもあります。当社もAIには大変高い関心を寄せて研究に取り組んでいます。次の10年でAIを使いこなせない会社は消えてなくなるんじゃないか?くらいの危機感です。

 

ARに関しては、以前Google glassが失敗しましたが、今後のデバイスの進化を見越すとかなりのゲームチェンジャーとなる可能性があります。現在、ほぼすべての人がスマホを持っているように、ほぼすべての人がARデバイスを身に着ける時代が来るとすれば、それこそAIの画像認識なんかと相まってすごいことが出来そうですよね。VRよりもARの方がマーケティングに与える影響が大きいのではないか?と勝手に思っています。

 

[松本] 先日、Amazon Dash Button が発売されて話題になりました。IoTもマーケティングに与えるインパクトは大きそうな期待のテクノロジーですよね。爆発的に情報が増えることによって、全く新しいWebサービスなんかもどんどん登場するんでしょうね。

 

[伊藤] 今の時代は、小売店に行けばトイレットペーパーとかその他日用品が何種類も山積みになってますけど、そもそもトイレットペーパーなんて自分で意思決定して買う必要ないですよね。トイレが勝手に注文してよと。醤油だって塩だって、無くなったら勝手に補充してよと。

 

[松本] 買うものが固定されてしまう時代ですから、ブランド乗り換えがますます起こりにくくなってしまいます。だからこそ各社こぞって参入を急いでいるんでしょうか。

 

 

 

まとめ

 

 

 

[松本] さて、では最後に、「アドテク」の開発の最前線で戦うエンジニアとしての心構えについて、伊藤さんが考えておられることを教えてください。

 

[伊藤] エンジニアって常に相手の土俵での相撲なのだと思うんです。

それこそまだ駆け出しの20代半ばのころ、ある日突然、連結会計システムのコンサルティングフェーズに参入してくれと打診された事がありました。それまで私は物流を中心にITをやっていたので全く知識なんてない。そこで何をやったかというと入門書から専門書まで何十冊も買い込んできて休日返上で読み漁り、とにかく大枠の概念を理解することと、わからない単語を潰すことに専念しました。

 

それでも実際に会議の場に出てみると、本には全く載ってない単語が飛び交う。気分としてはもう土俵際です。最初のほうの会議ではあまり発言せず、単に賢そうに振る舞うんです。オドオドしてると見透かされるから(笑)。で、会議後に必死で単語を調べる、そんな日々を送るわけです。ですが、要件から少し技術よりの話に入ってくると立場が一転して私の方が攻めに出れる。

 

まぁ、そんな泥臭い事をやっていたら、いつの間にかプロジェクトに必要な人物になることができていました。

 

だから土俵は相手の土俵なんだけど、自分は相手が持っていない鋭い刃物をもってる。そんなイメージでしょうか(笑)。この刃物の鋭さで負けたらもうエンジニアやってる意味ないですよね。ほんと大変な仕事です。でも、だからこそ、私はエンジニアという肩書に誇りを持っていますし、世のエンジニアの方々に頑張って頂きたいと思っています。

 

[松本] 刃先を研ぎ続ける努力を怠るな、ということですね。

 

[伊藤] 昨今は「ITはビジネスにおける一般教養」という認識も根付きているので、新しい世代の台頭にも期待したいです。サイバーエージェントさんとか見てても、出来る人は営業職でも技術に対する理解が非常に深い。こういう技術力もビジネス力もあるハイブリッド人材がもっと出てくると時代は進んでいくのかなと思います。そういう意味でやはり若い人には「ITを学べ!」と言いたいですね。

 

それと同時に、ビジネスサイドの人材がIT力をつける必要があるように、現在エンジニアをやっている若者もビジネスサイドに出ていって、対等にやりあう気概をもってほしいです。エンジニアってやっぱり控えめな方が多いので、もっと野心をもって人の土俵で相撲取って勝ちまくってほしい。だから彼らには「Engineers ! Be ambitious !!」と言いたいですね(笑)。

 

当社も微力ながらそういった時代の変化に貢献していけたらと思っています。

 

[松本] 本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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