今度は潜伏期間と接触回数 大好評!エビスINDEXをマメ研先生が語る! vol.2

今度は潜伏期間と接触回数 エビスINDEXをマメ研先生が語る!vol.2 マメ研先生 豊澤栄治×アドテク女子 加嶋美穂 今回は助手も参加 マメ研助手 松本健太郎

[豊澤] 忙しいのに呼び出して悪かったね。前回のエビスINDEX公開から1ヶ月ほど経つけど、新たなINDEX指標を見つけたので、アドテク女子こと加嶋さんに来て貰いました。さらに今回は、普段はアドエビスの開発に従事している、助手の松本くんも参加するよ。この場には参加できなかったけど、前回同様、独立行政法人産業技術総合研究所の油井誠さんにもご協力頂いている。

[加嶋] 今回は何が見られるんですか?前回はちょっと難しかったので、簡単だと嬉しいかな。

[松本] はい、今回はもの凄く簡単で、かつインパクトのある内容を用意しました。極めて興味深いと思います。

[豊澤] 最近もある人材会社が、保有する全数データを元に、自分自身の市場価値を明確にするサービスを始めたよね。昔は、大量の母集団から抽出して解析せざるを得なかったんだけど、技術的な問題がクリアされ、全数データを元に解析することが主流になりつつあると思う。
大阪ガスのデータサイエンティスト河本氏の書籍によると、

「すべての個人ないしすべての個体の挙動に関するデータを分析できますから、予測や判別の精度および分解能が格段に向上します。部分計測の世界では大まかなグループ単位で予測や判別をせざるを得なかったのに対し、全数計測の世界では個人や個体の単位できめ細かい予測や判別が可能になるのです。」

とあるよ。また、この辺りの話題については、ビクター・マイヤー=ショーンベルガー/ケネス・クキエの「ビッグデータの正体」に詳しく書かれているので興味があったら是非読んで欲しいな。

CV種別、業種毎に全く違う「潜伏期間」

[豊澤] 今回は、2012年8月1日から2013年7月31日を対象に、あるユーザーが広告に接触してからCVするまでに掛かった時間—すなわち潜伏期間と、CVするまでに接触した広告の数—すなわち接触回数をINDEX化してみたよ。
まずは、潜伏期間から見てみようか。このグラフは、ユーザーが到達したCVを大きく8種類に分類し、潜伏期間を5段階に分けている。

[加嶋] 接触から「30分以内」に何らかのコンバージョンに到達している割合が高いですね!もしかしたら、エビスを利用して頂いている顧客の多くが刈取系の計測のために利用されているからかもしれません。

[松本] 本当にそうでしょうか?確かにこのエビスINDEXは、日本中全てのデジタルマーケティングに関するデータを元にしているわけではありません。ですが、市場シェアNo.1(※株式会社シード・プランニングによる)であるアドエビスが、デジタルマーケティングの趨勢を無視して偏ったデータを持っているとも思えません。
未だデジタルマーケティングは刈取系が主流であり、認知系がまだまだ手法としては広まっていないと考えてもいいのではないでしょうか。

[豊澤] まぁ、そうは言っても、「30分以内」が全体に占める割合は40%だからね。言い換えれば、全体の6割は間接効果の分析が必要だとも言えるよね。他に何か気付いたことはあるかな?

[加嶋] 潜伏期間が30分以内だと、「資料請求」「お問い合わせ」「メルマガ登録」の比率が高いですが、1週間以上だと、「予約完了」「購入完了」「申込完了」の比率が高いです。やっぱり、お金がかかるか、そうではないかで違うんですね。まぁ、当たり前だとは思うんですけど。

[豊澤] いや、大事なことだよ!その当たり前が、エビスINDEXによって明らかになったんだ。こうした、具体的な数値によって。

[松本] 検討時間にかける長さの時間かもしれません。服を買うときや旅行に行くときは色んなサイトと見比べますけど、500円ぐらいの商品であれば、即決で買ってしまいます。

[豊澤] 確かに!じゃあ、今度は業種毎に見てみようか。エビスを利用して頂いている企業様をグルーピングして、多かったTOP10をグラフにしてみたよ。

[加嶋] こんなに違うんですか!「人材・求人」と「建築不動産」で3倍も違うなんて。

[松本] 物販のなかでも、アパレルと食料品では、比率がかなり違います。やはり、単価によって潜伏期間は違うのでしょう。

[加嶋] でも、1度買ったサイトであれば、前より潜伏期間は短いと思うんです。だから、新規とリピートで分けて見れば、また違う結果になるかもしれません。松本さん、開発して下さい!

[松本] ……。

[豊澤] 無視しちゃ駄目だよ!(笑)ところで、単価によって潜伏期間が違うという仮説があったけど、利用シーンに依る、という見方もないかな。例えば、加嶋さんはネットで服を買うとき、10分、20分で終わるかな?

[加嶋] それじゃ少なすぎます。色んなサイトと比較したり、家にある服と比べるので、1時間以上かけるときもあります。あ、だから「物販(アパレル)」の場合、潜伏期間は30分以降も他に比べて高いんですね!

[豊澤] このグラフは、デジタルマーケッターの誰もがユーザーペルソナを考える際に思い浮かべる「仮説」を、結果的に裏付けることになるんじゃないかな。感覚値としては割と合っているという声が聞こえてきそうだね。

「広告接触回数」で態度変容が見えてくる

[豊澤] 時間の次は回数だ。このグラフは、ユーザーが到達したCVを大きく8種類に分類し、広告接触回数を1回〜10回以上の10段階に分けている。「潜伏期間」と対比させ易いように、並べ方を同じにしてみたよ。

[松本] 先ほどの時間軸と違い、広告に1回接触してからのCVの比率がかなり高くは見えます。ただ、よく見ると、2回以上が全体の半分を占めています。それに、1回しか接触していないけど30分以上経ってからCVしたユーザーは、30分以内にCVしたユーザーと比べて、10分の1です。

[加嶋] さすがデータを出しただけはあります。

[松本] 弊社の内定者がかなり努力してくれました。

[豊澤] 日報に「飽きた」って書いていたけどね(笑)。

[松本] ……。

[豊澤] だから無視しちゃ駄目だよ!(笑)
さて加嶋さん、何か気付いたことはあるかな?

[加嶋] 「購入完了」と「会員登録」は、10%が10回以上も広告接触していることに驚きです。10人に1人ですよね。あとは「潜伏期間」同様の傾向が見えます……あ、ちょっと違いますね。「予約完了」の比率が高いですね。「購入完了」とは違う傾向が見えます。

[松本] 「予約完了」というCVは、その多くがWEBで完結しない傾向がありました。旅行、エステ、歯科……。

[加嶋]サイト内で商品を比較する場合は広告接触回数も多いけど、サイトそのもので比較する場合は少ないということでしょうか。

[豊澤] 仮説としてはあり得るよね!じゃあ、業種毎に見てみようか。

[加嶋] わお!「人材・求人」と「物販(アパレル)」で、10回以上も広告接触しているユーザーがこんなにいるなんて!

[松本] いずれも20%前後です。つまり、5人に1人は10回以上も広告接触してからCVしていることになります。「人材・求人」の場合、広告を1回クリックしたぐらいでは仮登録する気にはなれないものの、リタゲの対象になり、何度も求人広告を見てクリックするにつれて心理的障壁が少しずつ下がり、やがて「まぁ、仮登録ぐらいならいいか」と思うようになったのでしょうか。

[加嶋] 「物販(アパレル)」の場合、メルマガで商品新着が届くと必ず確認します。もし、メルマガでの計測をされている方が多いなら、この接触回数の多さも頷けます。

[豊澤] あとは「金融・保険」が、2回目の広告接触が他に比べて高いのも面白いよ。逆に、3回目以降は他の業種と比べて「金融・保険」は低い。広告接触回数というものを、事業主からのメッセージと顧客が受け取った回数と定義するなら、「金融・保険」の場合、2回目までに「じゃあ、俺もやってみようかな。アベノミクス効果も出てきたし」と重い腰を上げさせなければいけないわけだ。

[松本] その仮説は面白いですね。

[加嶋] これ、本当に面白いですね!CVタイプ別に「人材・求人」の接触回数を見てみたいです。

 

[豊澤] そう言うと思って、用意しておいたよ。「建築・不動産」も並べてみよう。30分以内のCVが最も多い業界と、最も少ない業界で対比してみよう。いずれも「購入完了」は凄く少なかったのでグラフからは省いているよ。

 

[松本] 何と解り易い……。「人材・求人」で見ると、「会員登録」の場合、接触回数が1回と10回以上でほぼ同数です。

[加嶋] 「建築・不動産」の場合、全く逆ですね。業種に応じて、「会員登録」の持っている意味が違うということですね。

[松本] 「人材・求人」では、できるだけ早く「メルマガ登録」「資料請求」させて、情報を顧客に届ける。そして、あとは「会員登録」して貰うことを待つ。一方で「建築・不動産」では、できるだけ早く「会員登録」させて、情報を顧客に届ける。そして、あとは来場「予約完了」して貰うことを待つ。

[加嶋] なるほど、LTVを各CVポイントで区切り、達成度合いを見るんですね。

[豊澤] そう、そうなんだ!CVポイントこそ態度変容だよ!

[松本] 態度変容とは、CVに至ったユーザーが、どの広告をキッカケにCVするようになったかというアトリビューション分析に用いられる用語で、ちょっと意味が違うと思うのですが……。

 

[豊澤] 松本くん、確かにそうだ。でも、別の見方もあるんじゃないかな。そもそも企業の目的は何だい?

[加嶋] 持続可能な範囲で、売上と利益を最大化することだと思います。

[豊澤] その目的を達成するために、LTVというKPIが採用され、目標として「LTV○円以上」という数字が掲げられる。全てのKPIは、ここから枝分かれしたに過ぎないと思うんだ。ならば、ユーザーがいかにCVするか、どの広告を流すべきか考えるのも大事だけど、それは一部に過ぎない。個別最適でしかない。

[松本] 先ほどの「人材・求人」のように、メルマガ、資料請求、会員登録というフローを見据える必要がある、ということですか?

[豊澤] そう。全体最適が必要なんだ。会員登録のCVをあげるために予算を投下し過ぎて、資料請求への予算を削ってはいけないんだ。もし、フローが成立しているならば、一時的には会員登録のCVRは上がるかもしれないけど、いずれ先細る。なぜなら……。

[加嶋] 予算を削ったせいで、資料請求で獲得した分母が減った。だから前に比べて会員登録候補の分母も減っている。

[松本] なるほど……しかし、それは大変な作業ですね。全てを俯瞰するペルソナを設計し、かつ全てを一気通貫で分析できなければならない。かつ、勝ちパターンを創り、更新し続けなければならない。

[豊澤] そのためにデータの一元管理が重要なんだよ。CV単位で、違うタグを使ってはいけないし、違う会社毎のレポートを集めて、最後に付き合わせても何の意味も無いんだ。

最後に

[松本] 非常にエキサイティングな内容でした。なんだか「マネー・ボール」を見ているようでした。思い込みって怖いです。

[加嶋] 他にも、今まで「そうだろうな」と思っていたことが、明確にデータとして現れたことも良かったと思います。

[豊澤] そうだね。次回は、今回で得た気付きをもとにLTVの観点で見るのも面白いかもしれない。

[加嶋] 人の動きですか?

[松本] そう。他にも、「人材・求人」でCVをしているか否かで、他の業種に影響が出るのかを考えるのも面白いだろうね。全数データを統計学的観点で分析する「ad-stat」の世界は奥が深いよ。

[加嶋 松本] 今日は本当にありがとうございました!

【参考文献】
河本 薫「会社を変える分析の力」講談社現代新書,2013年
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー,ケネス・クキエ(著),斎藤 栄一郎(翻訳)「ビッグデータの正体」講談社,2013年

今後、エビスINDEXに関して順次して公表していく予定です。
ご意見、ご感想、また共同研究して頂ける方を募集しておりますので
ご興味のある方は、是非、お問い合わせください。

Written by