2015年大混戦セリーグをヤクルトが優勝できた理由

今回は、恒例になってきたセイバーメトリクス分析事例です。

 

2015年のセリーグ・プロ野球は、開幕前に誰も予想していなかった2年連続最下位のヤクルトが優勝するという結末を迎えました。

マメ研としては広島の優勝を予想していまし、その予想を掲げる野球解説者も多くいましたが、残念ながら4位という結果で終えています。

1位から4位までゲーム差6.5という稀に見る大混戦を抜け出したヤクルトの何が凄かったのか?について、詳細に分析したいと思います。

 

ピタゴラス勝率で考える各チームの傾向

大接戦だったセリーグを、セイバーメトリクス的観点で分析していきます。まず、様々な指標を開発してきたビル・ジェームスの手によって生み出された「ピタゴラス勝率」を用います。

ピタゴラス勝率は、得点と失点からチームの勝率を予想します。チームの実際の勝率とピタゴラス勝率を比較することで、運と偶然によって手にした勝利も浮かび上がると言われています。

計算式はピタゴラス勝率のリンク先を参考にしてください。

さて、式に当てはめると、以下のような結果となりました。

 

球団得点失点勝利敗北勝率ピタゴラス勝率
swallows57451876650.5390.551
giants48944375670.5280.549
tigers46559870710.4960.377
carp50647469710.4930.533
dragons47350462770.4460.468
baystars50855062800.4370.460

 

得失点差から導くに、ヤクルトの勝率がやはり高く、優勝という結果に変わりなさそうです。

意外に見えるのが、阪神のピタゴラス勝率です。得失点上を元に計算すると圧倒的な最下位となります。勝率の差は0.106(15勝分)もあります。

ピタゴラス勝率に比べて実際の勝率が良いということは、運と偶然が味方した勝利が多いというのがこのメトリクスの見方です。つまり、和田阪神はラッキーパンチで15勝していたという見方があります。

その逆が広島です。勝率の差は、0.035、実に5勝分損していた計算になります。米国では、この負け勝率差分は監督の采配能力の無さと言われているそうですが、さすがに広島ファンが怒るでしょうね。

 

ちなみに過去10年分の結果からピタゴラス勝率を算出し、実際の勝率との差はあるのか散布図で描いてみました。

その結果に回帰直線を引いてみます。

2005年~2015年の得失点からピタゴラス勝率を算出

xの傾きは1に限りなく近く、決定係数も0.80と十分に高い値と言えます。このピタゴラス勝率の出来の良さが伺えますね。2015年阪神は異常値扱いでしょう。

では、計算上は順当なヤクルトの優勝と、想定外な阪神の躍進の理由はどこにあるのか?を探っていきます。

 

各回毎の得失点から浮かび上がる各チームの特徴

ピタゴラス勝率は、全体を俯瞰して見るマクロ経済学的発想に着眼しています。それでは見えないこともあると考え、次はミクロに見ていきます。

具体的には、セリーグ各チーム143試合全ての得失点をcsvに記録し、加工してみました。(体力的な限界により下位2チームは分析対象から省きました。DeNAさん、メッセージくれたらやりますよ!)

まず、セリーグ上位4球団が各回に得点した点数の合計を折れ線グラフで表現してみます。

縦軸は得点です

ヤクルトと広島は初回得点が多いことがわかります。一方で、巨人が圧倒的に少なく、その差は32点もあります。満塁ホームラン8本分です。

この図で特徴的なのはヤクルトの2回得点も多いことです。初回に多かった広島も2回はかなり少ないですが、ヤクルトは大きく下げていません。

通常、1回の得点は3番・4番打者によるものが多く、2回の得点は(初回が三者凡退〜2名ほど塁に出たと考えたとして)6〜8番打者によるものが多いと言えます。どこからでも得点をあげられるヤクルト打線の強さを伺えます

一方で低調なのが阪神打線です。1回〜5回まではエンジンがかかっていないようです。3回終了段階でビハインドしているときの勝率は0.209、6球団全体で見て逆転勝ちが最も少ないという結果からも、この低調な打線が3位という結果に繋がったとも言えます。

 

続いて、各回に失点した点数の合計を折れ線グラフで表現してみます。

縦軸は失点です。

阪神とヤクルトは中盤(4〜6回)の失点が多いことがわかります。一方で、巨人は6回を除いて終始、失点が少ないことがわかります。先発防御率2.81、途中登板防御率2.71の数字は12球団で最高です。

この中盤で数字が跳ねる瞬間は、先発投手が崩れ始めて失点を重ねた回ではないかと推察されます。

そう考えると広島は突出した回はありませんから、投手交代は比較的計算して行われたのではないかと考えています。

(私は畝投手コーチの実績だと考えています。今は全国的に注目されていませんが、投手交代の手際良さを考えると、もっと注目を浴びて良いコーチだと思います)

 

怖いのは阪神先発陣の中盤に起こる失点です。

先発投手陣は藤浪が21歳、岩田が32歳、メッセンジャーが34歳、能見が36歳。藤浪を除いて先発投手陣高齢化現象が襲っています。第5、第6の先発として24歳の岩崎、23歳の岩本、24歳の岩定、24歳の秋山が挑戦していましたが、全く結果を残せていません。

さらに怖いなのは、中継ぎ陣の福原が39歳、安藤が38歳、高宮が34歳という点です。

阪神の途中登板防御率4.11という結果は、この折れ線グラフを見てもうなずけます。つまり勝ち試合に登板する投手の顔ぶれは決まっていても、微妙な展開で投げられる投手がいないのです。今の所、松田、歳内がそれを担っているのでしょうが、荷が重いようです。それが得失点差を開く結果につながったのではないでしょうか。

つまり、ピタゴラス勝率で考える阪神の躍進は、蓋を開けると先発投手陣高齢化現象に伴う中盤の失点と中継ぎ陣大崩壊の結果でしかないと思われます。

 

最後に、この得失点を序盤、中盤、終盤ごとの3タームに区切って、差分を表してみます。

縦軸は得失点差です。

ここでも阪神投手陣(特に中継ぎ)の弱さが顕著に表れています。さらに、ヤクルトの序盤得点の多さも顕著に表れています。

広島は中盤のみ突出しています。6回終了段階でビハインドしているときの勝率は0.093ですから、粘りの無さが4位で終わった理由なのかもしれません。

 

阪神と広島が優勝戦線に残れなかった理由が浮かんできたところで、さらに詳細に分析を進めます。

 

野球とは3個のアウトを9回取るゲームである―二項分布的発想

セイバーメトリクス的手法を用いてオークランド・アスレチックスを大躍進させたビリー・ジーンは、野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義しました。

私は少し違和感を覚えていて、このように言い換えたいと思います。すなわち「3個のアウトを9回取るまでは終わらない競技」と。

重要なのはアウトにならない(を取る)というルールだけでなく、3個のアウトを取られる前に1点を取ること(取られないこと)だと思うのです。

そこでn=9を143回(試合)試行する二項分布的発想を用いて分析したいと思います。ちなみに、この分析では延長戦(すなわち10回以上続く場合)を考慮に入れていません。

 

まず、得点の分布を確認します。1試合あたり、何回得点できたかは以下の通りです。

縦軸は試合数です。

回数0は9回終了段階での完封を意味しています。ヤクルトの回数の低さが目をひきますね。

そもそも巨人、阪神、広島が2回を中心とする近しい傾向を示している中で、ヤクルトだけが違う分布を示しています。

1回あたり得点する確率はヤクルトが0.242、巨人が0.221、阪神が0.214、広島が0.228という結果になりました。ヤクルトは、11試合(99回)すれば他球団と比べて約2回、チャンスをものにしている回数が多いという結果です。

前述しましたが、ヤクルトは「どの打順から始めても得点できる」というのが大きな強みであることが、この結果から導けます。

 

続いて、失点の分布を確認します。1試合あたり、何回失点を防げなかったかは以下の通りです。

縦軸は試合数です。

今度は巨人だけが傾向が違います。得点分布と同じようにヤクルト、阪神、広島が2回を中心としていますが、巨人だけが1回に集中しています。巨人投手陣の強さを伺い知れます。

さきほどの失点合計棒グラフからもわかるように、「魔の6回」とも言うべき先発投手陣の替え時に見える迷いさえなければ、優勝も夢ではなかったのではないか?と思えてなりません。

もう1つ特徴的なのは、広島は1試合あたりの失点回数が0回〜3回まではヤクルト、阪神と傾向が一緒ですが、4回以降となると巨人と傾向が一緒なのです。つまり広島投手陣は殆ど大崩れしなかったと推察されます

マエケンMLB挑戦、漢黒田引退?が話題になる広島ですが、投手陣の整備はかなり進んでいて、投手王国復権の予感がします。

 

勝利・敗戦決定回から決定づける各チームの勝ち方・負け方

いろんな傾向が見えたところで、最後に各チームは何回に勝負を決めたか(何回に勝ち越してそのまま勝利に繋がったか)を明らかにしたいと思います。

まず、勝利を決めた回の折れ線グラフを見てみましょう。

 

 

縦軸は試合数です。

前述したように、ヤクルトはやはり序盤に得点してそのまま逃げ切る型が多かったようです。一方で、巨人は序盤型と終盤型の2パターンに分かれるようです。終盤まで競れる投手力があってこその結果です。

広島はヤクルトと同じような型で勝った試合が多いですが、終盤での勝利が非常に少なく、このあたりが4位で終わった理由でしょう。

 

次に、何回に負け越してそのまま敗戦に繋がったかを表す、敗戦を決めた回の折れ線グラフを見てみましょう。

縦軸は試合数です。

ヤクルトは序盤で負け越すとそのまま敗れるケースが一番多いことがわかりました。一方で、7回以降に負け越してそのまま敗戦につながる試合は非常に少なく、鉄板の中継ぎ投手陣・ROBの威力を感じさせます。

また、この表からも広島が終盤で競り負けていることが読み取れます。

 

この表から、各球団の勝ちスタイルが見えてきますね。ヤクルト・広島は先行型、巨人は先行・終盤競り勝ち型並行、阪神は終盤競り勝ち型とでもいいましょうか。

言い換えると、各球団のスタイルに持って行かせないような勝負を各球団はしなくてはなりません。

 

まとめと、各チームの2016年取るべき対策

最後に、今回の分析で分かったことを、主に長所・短所にフォーカスを充ててまとめたいと思います。

<長所>
ヤクルト:”打線”の繋がり。平均年齢から考えて、選手がFAでもしない限り、あと3年は強力打線が続くのでは。
巨人:鉄壁とも言える投手陣。しいて言えば、先発の立ち上がりだけが不安定か。
阪神:まだまだ安定的な先発陣。しかし高齢化が激しく、来年も安定とはとても思えない。
広島:整備され始めた投手陣。失点を重ねない試合進行は、投手王国の復興を感じさせる。

<短所>(2016年の対策)
ヤクルト:先発投手陣の層の薄さ。あと2枚は欲しいところ。
巨人:”打線”の再構築。1〜3番で得点を稼げる打者を並べる必要がある。やはり坂本は一番では?
阪神:先発・中継ぎ投手陣の層の薄さ。いずれも2枚は必要。藤川の復帰は最重要課題である。
広島:監督の采配。後半に打ち勝てる打力、強いて言えば精神力の強さ。

さて、各球団ともにウィークポイントは知っているはずなので、このオフにどのような補強を行うかが楽しみです。

 

最後に、これまで様々な観点で分析をしてきましたが、全ては「ヤクルトの優勝」という結果があってこそ、それにこじつけている部分があることは否めません。

もし巨人が優勝していれば、「後半に競り勝てる鉄壁の投手陣を率いる巨人と、勝利状態でなければ登場しないROBのヤクルト、投手層の差が原因」「ヤクルト打線は強力だったが、先発投手陣がカバーしきれなかった」という見方もできる”数字”でした。

だからこそ2016年は、はっきりと優勝の特徴とも言えるような傾向が表れる、ソフトバンクのような圧倒的勝利を残して欲しいと思います。

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